映画はいろんなことを教えてくれる。私より上の世代ならば、東映任侠映画の高倉健や鶴田浩二が、さらに歳が上ならば、日活の石原裕次郎や小林旭が、大人のかっこよさを洟垂れ小僧に教えてくれた。僕の世代のそれは角川春樹の映画である。角川春樹は、角川映画社を設立し、マスコミを使った派手な宣伝、新しいスターの発掘など、一世を風靡したものである。しかし、映画会社を設立する前から、制作者として東映映画に関わっていた。そのなかで私が好きだったのは、松田優作主演の大藪晴彦原作の映画である。かってのスター同様、松田優作演じる主人公には反社会的要素があり、中学生のお子様が見るには少し刺激的であり、親が眉をひそめたくなる映画であった。神戸の場末の映画館へ、二本立てで上映されているのを見にいったものだ。近くには、県立の大きな図書館があり、本好きの僕はそこにもよく通ったものだ。図書館では品行方正な中学生を、映画館では少し不良の中学生を、演じ、昼の顔と夜の顔を持つ大藪ワールドの主人公になったつもりでいた。今から思えば、単なるおませで頭でっかちな中学生でしかなかったのだろう。
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