悲しみが乾くまで

2008年11月14日 映画
 スザンヌ・ビアの最新作である、北欧出身の彼女がアメリカ資本の作品を撮ることには賛否両論が渦巻いていたが、十分に彼女らしさが出ていて嬉しかった。それは喪失に対する人の心の痛みとそれを取り巻く人々の心の揺れであり、そのなかを深淵なる愛が貫かれている。そして、いつも通り、一つ一つのシーンが紡がれた糸であり、それがていねいに織り込まれることで見事なタペストリーのような作品が完成されていた。私は彼女の作品を鑑賞するとき、糸のつながりを読みほどくのではなく、完成されたタペストリーを少し引いて眺めるのが好きだ。
 もちろん今までの作品と異なるところもある。今までの作品では、戦争や貧困などあまりにも事情が複雑で個人で太刀打ちできない大きなテーマが障壁として選ばれていたのに対し、この作品は個人の問題に比較的還元しやすい麻薬と銃が扱われている。その点、エンディングへの道は平坦でなくとも、迷うことはない。これはアメリカ映画の特徴の一つであり、いろいろおきてワクワクするが、ちゃんと終着点は用意されていると。
 そして、この作品のもうひとつの見所は、アメリカが誇る性格俳優ベニチオ・デル・トロの主演であろう。駄目人間を演じれば右にでるものはいない彼、今回も悩める薬中をなんなく演じきっており、ポスト・ロバート・デニーロにまた一歩近づいたこと間違いなし。そうなると、駄目男だけでなく、神や悪魔など超越的な役を演じる彼も見てみたいものである。
 ちなみに、原題の"Things we lost in the fire"のほうがいいのは、みんなが賛成するところであろう。
 情報をもうひとつ、この作品で音楽を担当したグスタヴォ・サントオラージャは、「マイ・ブルベリー・ナイツ」や「ブロークバック・マウンテン」でも楽曲を提供している売れっ子のミュージシャン、ちなみにもうすぐアメリカで公開される「
ザ・ロード」の音楽も担当しているらしい。

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