大好きなウェス・アンダーソン監督のこの作品を見て、日記に書きたいなと思いながら、なかなか書けないでいた
8月のお盆を過ぎた頃から、秋の気配を、空模様、朝の空気、虫の音に感じるたびに、気分は下降気味で
大好きな監督さんの作品にも、素直にのめり込めないでいる自分がいる

作品は、相変わらず大人のなかに残っている子供心をくすぐる作品に仕上がっていて、楽しい
使われている衣装、小道具、建築、音楽、何から何まで、ディテールに凝っていて、ついていくのに大変
男の子の冠っているアライグマの帽子に気を取られていると、シンメトリーな構図を見逃してしまったりと
これはDVDを借りてきて、もう一度観らねばと思うも、その気力が湧かぬ、早くも脳は冬眠か

挑戦と安全

2013年6月25日 映画
ニュースで、命綱なしで渓谷の綱渡りに挑戦するひとを見た
今度は、ニューヨークの高層ビルで挑戦するらしい

いっぽうで、世の中、安全管理がうるさく叫ばれるようになった
危険に備えることは悪いことではない
シートベルトしめたり、ヘルメットをかぶったりすることで、死亡事故が減ったことはとてもいいことだと思う

この綱渡りをする人にとって、この挑戦はどれぐらい危険なことなんだろう
彼にとって綱渡りは、僕たちが横断歩道を渡るのと同じぐらい安全なんだろうか
彼にとってそれほど安全ならば、挑戦の意味合いが少し減るような
でも、そこまで安全でなかったら命綱はつけたほうがいいような
でも、演出上は命綱なしのほうが、より挑戦している感じがしていいのだろうか

見ている側はいつも、ハラハラドキドキしながら、無事に成功すると拍手喝采して喜ぶ
ハラハラドキドキしない芸には誰も見向きもしないし、命を落としては元も子もない
その塩梅がむずかしく、安全でありながら、いかにハラハラさせるかがミソとなる
フェリーニの道の旅芸人を思い出す

かぞくのくに

2013年6月19日 映画
社会の不条理をみごとに描き切った作品
もう、説明なんて一切必要ない、そこには、悲しい涙のみがある
今にも消えいりそうで、そしてきっと消えてしまうことをみんなが知っていても、そのわずかな光を信じることしか許されない現実
キャスティングもすばらしい

希望の国

2013年6月17日 映画
エネルギーのある映画を撮る監督さんで、
エロやグロといった人間の根源的な欲を描かせるとすばらしい

しかし、様々な事情が絡んだ社会的テーマをあつかった本作では
そのエネルギーが少し空回りしているような
さらに、前回のバーバーのアダージョといい、今回のマーラーのアダージョといい、ざーとらしくて、鼻白む

前作のヒミズから大人の作品にチャレンジしているが、
もう一度原点にもどった、この監督さんの、野性をテーマにしたエキセントリックなカルト映画を見てみたい
君は北野武にはなれないんだから

別離

2013年5月15日 映画
芥川の「薮の中」
真実はあったのかもしれないが、登場人物各位の主観を通されることで、何が真実なのかを見極められなくなる

本作はペルシャ版「薮の中」、もちろん監督さんが芥川のこの作品を知っているわけはなく、「薮の中」はコスモポリタンなアイデアなのだろう
ペルシャのお国事情も垣間見え、なかなか面白い
登場人物のみなさん、プライドが高く、すぐ感情的に、まるでアウトレージのやくざばりの怒鳴り合いとなる
そんななか、神と裁判官が、一つ上の階層に属する絶対的なものとして登場する
もちろんのことだが、これらの絶対的なものは世の不条理を解いてくれるわけでなく、どちらかというとさらに掻き回して、ことをややこしくする

とても重 いが、世が不条理に満ちていることを再確認できる


夢売るふたり

2013年5月8日 映画
人の気持ちは、日常が何層にも重なって醸成される
突如として好きになったり嫌いになったり、信用したりするんじゃない
その気持ちが醸成する様を丁寧に映像化するのが、この監督さんのうまさである

この作品では夢見る女心がテーマ
 登場人物が少し過多なだけに雑な部分がみられたのが残念だが、相変わらずよくできている
物思いに耽る彼女たちの顔がドアップされるたびに、ドキリとさせられる

それにしてもこの監督さん
毎回、うさん臭い関西芸人にわざとらしい演技をつけて、深刻なテーマが重くなり過ぎないようにしている
かつて日曜日の午後にやっていた「あっちこっち丁稚」を思わせる
この監督さん、じつは、さんまさんを使いたいんとちゃうかな
恋愛、探偵など様々な要素が入り交じったドタバタ劇
テンポよく、最後のクライマックスまで気持ちよくおつきあい
登場人物もエピソードも、多くもなく少なくもなく、量がちょうどいい
劇中劇もクスッと笑えていい感じ

預言者 [DVD]

2013年5月2日 映画
この世の中には暴力が溢れている
だから、映画の中の世界が暴力で溢れていても不思議ではない
タランティーノ、ダルデンヌ兄弟、北野武などなど、国際映画祭で評価されている監督さんにも、暴力に満ち溢れている世界を好んで描く人たちがいる
この作品で2009年にカンヌのグランプリを取ったフランス人監督、ジャック・オーディアールもそんな監督さんの一人だ
野性と不条理に満ちた世界で、新しい伝説(神話)が出現するさまを描く
物語の王道だね

ベニスに死す

2013年4月16日 映画
抽象的概念を映像化することは難しい
イタリアの巨匠、ヴィスコンティが対象にしたのは耽美
この映画でも、老人の若さへの憧れを耽美に描いている
老いは若さのアンチテーゼであり、この対比は具材であり、あくまでテーマは耽美なのだ
だから映像化された老いや疫病に気を取られていると、この映画の良さが霞んでしまう
マーラーの5番のアダージョの甘いメロディーに身を委ね、耽美の世界に迷えるかどうかが、この映画の鑑賞の味噌となる

東銀座で、ワーグナーのオペラ「パルジファル」を楽しむ
聖杯をめぐる物語であり、聖なる槍なども出てくる、ベースはキリスト教
三種の神器しかり、どの神話にも魔法のアイテムは必要なのだ
指環で見られた戦いはすっかり陰をひそめ、永遠の愛が描かれ、めでたしめでたしで幕は閉じる
旧きヨーロッパの様式美、安心して鑑賞できる
斜め向かいの歌舞伎座では極東の様式美が演じられており、なお感慨深い

ネットか雑誌か、どこか忘れたが
日本のやくざは大きな声で凄むという点でイタリアマフィアとは違うというのを読んで、なるほどと思った
この映画も、みんなで凄みっぱなし、あまりにもうるさくて少し苦笑してしまう
もう一つのやくざの証は「筋を通す」、この台詞も頻出
というわけで、「われ、筋、通さんかい」と大声で怒鳴りあうことになり
筋を通さない権力側が最後に破れて、めでたしめでたし

まるでイスラム原理主義者対暴君アメリカの戦いみたいなのだ

ニーチェの馬

2013年1月11日 映画
底知れない絶望がテーマの映画である
希望がテーマであるスサンネ・ピアの映画と対称的である
スサンネ・ピアの映画では、強い自我と責任感を持つ主人公が自分の力で絶望に満ちた世界を勇敢に漕いで行こうとする
そんな主人公はマイナーであって、ほとんどの凡人は自分の絶望的な状況にさえ気付かず、この映画の親子のように落ちて行くのである
教会はこのような羊たちに、死んでも祈りさえあれば天国にいけるとささやいてきた
しかし、残酷な監督は神の存在さえ、先回りして消してしまう

さて、この映画、絶えず風が吹きまくっており、希望を含めた地表すべてのものを持って行こうとしており、風の音が絶望感を倍増する
かつて遠州に住んでいた私は、冬になると西風が吹き続けることに辟易した
建物のなかで西側に位置する部屋が明らかに寒く、独身だった私は風の音を聞きながら蒲団にさびしく包まって寝たもんだ
そして、かの地では冬が去れば必ず風が止み、春がきたもんだ

ファウスト

2013年1月10日 映画
スラブ人の映画監督に、タルコフスキーという眠たくなる作品を撮る人がいた
このソクーロフも、同じく眠たくなる作品を撮る監督さんである
眠たくなるのは話しが冗長だからなのだが、きっと必要だから冗長なのだろう
コンピューターシステムの安全性は冗長性により担保されており、冗長性が必要なときだってあるのだ
でも、実際に映像を見たとき、この冗長に付き合わされる苦痛は耐え難く、ついついウトウトしてしまう
今回の作品も冗長性満載、気合いを入れて見てないと、地獄ならぬ、夢の世界に連れて行かれそうになる
とくに前半、ファウスト博士が金に困っている様をだらだらと描写するのに付き合わねばならぬが、その間にも、彼が虜になっている魂についてちらほらと話題が
後半、悪魔とともに筋が現れるが、相変わらず監督独特の映像手法におつきあいをせねばいけない
まあ、エンターテイメント性は乏しいが、口当たりの良いものばかり食べていると虚弱になってしまうので、たまにはあくの強い作品につきあうのもよいかと

私は、あくの強い主人公のファウストが監督さんに見えてしょうがなかった
そして、わたしのこの文章の冗長さに苦笑してしまった
選挙が始まった
軸は、経済政策と原発問題、各党違いを出そうとするがなかなか苦戦している

かつて、東西冷戦時代は、イデオロギーの戦いであり、資本主義と共産主義という分かりやすい構図があった
資本主義の象徴は富裕層、共産主義の象徴は赤い旗、
そんな富裕層の退廃ぶりを、嘆美に描いたのがテオ・アンゲロプロスの「狩人」であり、揺れる時代を群像劇で描いた素晴らしい作品だ
この映画が好きな理由は、自分が若かった時代へのノスタルジーもあるのかもしれない
似た映画に、海を隔てた隣国イタリアの巨匠ヴィスコンティの山猫があり、こちらも好きな作品だ
作りこまれた映画は一回観ただけではその良さは伝わりにくく、何度も観ていくうちに、じわじわとその良さがわかってくる
誰かに頼まれたわけでもないのに、そんな映画を毎回撮っているこの監督さん
いつもながら、頭が下がる
創造とはこういう作品のことを言うのだろう
テーマは難民であるが、国家と個人の権利という、昔からある難問に還元できる
そこに、キリスト教的奇跡がエッセンスとして加わる
多元的価値観の共存を象徴とし、ノーベル賞までいただいたEUで、単一の価値観が強くなりすぎたマネーゲームが経済問題を引き起こしている。そのような状況を鑑みながら観ると、なおいっそう味わい深い

少年と自転車

2012年9月28日 映画
ベルギー人の兄弟監督の作品
流れに引き込まれ、あっと言う間の一時間半
うん、映画は二時間じゃなくてもいいんだと素直に感心

この兄弟監督、駄目大人に囲まれた厳しい状況下で、子供たちが成長していく過程を、一貫してテーマにしており
それも、厳しい状況をドラマティックに描くのではなく、淡々と描く、この傾向は撮るたびに強くなっている
本作品でも、主人公の素直な感情の未熟ゆえに揺れ動く様が手に取るように伝わってくる
劇中で流れる、唯一の挿入曲、ベートーヴェンのピアコンがその揺れる不安を効果的に演出する
でも、この少年も大人になったら、劇中の駄目男の一人になっちゃうのかななどと、要らぬことも考える
いかんいかん、夢を持たねば

ちなみにカンヌでグランプリを獲っているが、この年、さらに上の賞パルム・ドールを獲ったのは以前日記に書いたアメリカ映画「ツリー・オブ・ライフ」
この監督さんたちは、「ロゼッタ」と「ある子供たち」でもう2回パルム・ドールを受賞しているので、遠慮してもらったのかな、これが大人の世界

日本の大人の世界がどうかはよく知らないが
一般に、大人の世界は厳しい
ルールを守らなければ、即、退場なんてこともあるし
ルールを守っていても、予防原則にひっかかり、叩かれることも

国語教師が少し退屈なフランス語の授業を通して、
そんな大人への道を教えてくれるお話

大人の世界は厳しいが、自由という素晴らしいものが待っているのだ
がんばれ、生徒たち

私が、生きる肌

2012年8月30日 映画
誰がなんと言おうが、ペドロ・アルモドバルはいい
私が偏愛する監督は、ジャン=ジャック・ベネックスにしろ、エミール・クストリッツァにしろ、寡作な人が多いので
二、三年に一度、コンスタントに作品を出している彼はありがたい
そんなアルモドバルの新作は、ちょっと猟奇もの
猟奇なのに、相変わらず映像は美しい
同じ猟奇的手術ものでも、クローネンバーグが近未来的な光沢を出すのに対し、あくまでもアルモドバルは原色にこだわる
その原色に、ウマイヤ朝アラブ人の支配下にあったアンダルスの残り香を感じたり
作品の中の結婚式で歌っているマジョルカ出身のBuikaはオリジナルはアフリカでありながら、ロマの影響を受けており
そんなスペインのごった煮の要素を使いながら、美しい映画を作るアルモドバルはすごい
ストーリーは相変わらず陳腐なんだけどね

SHAME -シェイム-

2012年8月28日 映画
人は誘惑に弱い動物であり
誘惑に弱いことを、とても恥じる
これはアフリカや南米原住民などマイナーな民族では違うかもしれないが、洋の東西を問わず現在では世界共通の価値観であろう
このテーマを、私は野生との葛藤と呼んでおり、映画や文学のメジャーな対象になっている
そんな野生との葛藤を描いた名作がまたまた出てきた

駄目駄目男と言えば、イギリスのジェレミー・アイアンズ、日本の妻夫木などが思い浮かぶが
この主人公、ミヒャエル・ファスベンダーもなかなかいい駄目っぷりを演じてている
この人、クローネンバーグやリドリー・スコットの作品にも出てるそうで、そちらも気になる
そしてこの駄目男の相方の駄目女を演じるのが「私を離さないで」のキャリー・マリガン、彼女「ドライブ」に出てたんだ、こっちも見なくては

不満な点は、演出の小道具がわかりやすいステレオタイプになり下がっており、作り過ぎなのが...
なんで野生児の聴く音楽はいつもバッハなんだ!?

駄目駄目な主人公を見ると萎えてしまう人や
道徳観が高く、誘惑に弱いのは意思が弱いからだと信じてる人は、
腹が立ってしょうがないので、決して見てはいけない

恋の罪

2012年6月27日 映画
人は野生でなくなった
社会性が強くなるに従い、欲望を被服の下に隠し、紳士淑女の振りをして日常を過ごす
しかし、吹けば飛ぶようなペンペラペンの秩序に嫌気がさし、野生に戻りたくなったり
または、野卑であることをまるで服を着るようにわざと見せつけるようになる
そんな人の性(さが)の綻びを描くことは、社会の不条理を描くことと同じぐらい、大切なテーマとして扱われている
映画のテーマとしては王道なのである
そして、売春婦の母親役の大方斐紗子をかなりエキセントリックに描いていることも味噌である

この作品、実際の事件を下敷きにしており、関係者は生きているし、裁判自体も継続中であり
そのあたりの配慮に欠けているとの批判がネット上で溢れている
だからというわけではないが、事件の抽象性だけを借り、オリジナルのストーリーで臨んで欲しかった
そこに監督のセンスが光るはずだから

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